▶昔の大道の風景と道普請

私は、太平洋戦争の真っ最中の昭和19年(1944)に、大道に生まれました。物心がつく前に戦争が終わっていましたので戦争の記憶はありません。ただ、戦後の荒廃した大道のことは、今でもはっきりと覚えています。（高宗台町内会　廣瀬　健）

大道には、昭和の初期には、32軒しか家がなかったと父母から聞いていますが、昭和25年から30年にかけて戦地から引き上げた人たちが移り住むようになり、大道の人口は急激に増えはじめました。大道小学校の教室も足りなくなり、午前と午後に分けて二部授業が行われました。私が入学した時には、ひとクラス60名で6クラスでしたが、卒業する時には7クラスに増えていました。教室不足は、3年生くらいまで続きました。

侍従川は、人口が急激に増えたため生活廃水が流入して悪臭が漂うドブ川になってしまいました。今は、カルガモやホタルなども見ることが出来、見違えるようにきれいになりました。瀬戸の京浜急行のガードから、現在のスーパー横浜屋の辺りまでは、一車線のコンクリート舗装でした。それより先の西大道、朝比奈の相武隧道、上郷、原宿まで、あちこちに大きな穴があく悪路が続いていました。六浦原宿線は大部分が舗装されていない砂利道でした。

冬の乾燥期や雨の降らない時などは、砂埃が舞い上がり、道路の近くの家は随分迷惑したようでした。交通量は少なくて、たまに神奈川中央バスや米軍の車が走る程度でした。バスの中には木炭車も混じっており、鼻欠地蔵の前で運転手が降りて車の後方にある釜に木材を補給して朝比奈の峠をのぼって行く光景を覚えています。

地元の住人が田畑への往来にリヤカーをひいて通る、のどかな田舎道で、お年寄りが通りすがりに、モグラに掘り返された荒れた道を道普請（みちぶしん）している姿もありました。道普請というのは、道を歩きながら凹んだ所を直す、今の言葉で言うとボランティア活動です。当時は、行政だけに頼るのではなく、自分たちでも道路の修復をやっていたのです。

私の家の屋号は”わきのやと”でした。”おおやと”、”おもて”、”にいや”、”みょうどう”、”いんきょ”などの屋号で呼び合っていました。長島という姓が多かったので屋号を使っていたのだと思われます。当時は建物が少なかったので、私の家から畑や田圃越しに六浦原宿線や大道小学校が見渡すことができました。たまに、追浜にあった富士モーターという自動車工場で修理するための軍用の車や、消防車などの緊急の車が通ると珍しくて、兄と走って見に行ったものです。

大道は、廣重が描いた金沢八景の浮世絵にも出てくる古い地名ですが、平潟湾が近くにあり、海と山が隣接する極めて自然豊かな地でありました。大道から朝比奈にかけて続く畑や田圃、上行寺の近くの塩場、人家と田畑や丘陵地がうまく調和している里山、そこを流れる侍従川など、大道は、子どもたちの絶好の遊び場でした。遊びの種類はたくさんあって、ほとんど自然にある物を遊び道具に使っていました。侍従川での”かいぼり”などの魚捕り遊び、山の竹を使った鉄砲を作ってヤツデの実を玉にした戦争ごっこ遊び、蜘蛛を戦わせるホンチ遊び、ベーゴマやめんこ遊び、田畑でのかくれんぼなど、数え切れない遊びが脳裏によみがえってきます。

私たちの住む町の呼び方も時代とともに変わってきました。六浦は、昔は”むつら”と呼んでいました。大道は”でいどう”、朝比奈は”朝夷奈（あさいな）”、高舟は”高宗（たかぶね）”という地名が昔は使われていました。

大道の周辺の歴史を紐解いてみますと、朝比奈切通し開通、池子トンネル開通、白山道トンネル開通、京浜急行開通、相武隧道開通、日通団地造成という大工事が行われてきたことが分かります。32軒しかなかった家は、今は680世帯になっており、100年という歳月をかけて20倍以上に発展しました。

1147　文久3年 常福寺の阿弥陀堂造営（阿弥陀三尊像は県の重要文化財で今は宝樹院が管理）
1241　文治2年 朝夷奈三郎義秀が一晩で切り開いたという逸話がある朝比奈切通しが開かれる
1422　応永29年 称名寺造営費用の捻出目的で関所を設置（今のエールハウスの辺り）
1873　明治6年 三分学舎（六浦小学校の前身）が開校する
1889　明治22年 三分村と釜利谷村が合併、後に朝比奈村が加わり六浦荘村ができる
1900　明治33年 池子トンネル（六浦―逗子間）が開通
1911　明治44年 白山道トンネル（六浦―釜利谷間）が開通
1930　昭和5年 湘南電気鉄道（今の京浜急行　黄金町―浦賀、金沢八景―逗子間）が開通
1944　昭和19年 大船に抜ける六浦原宿線・相武隧道が開通
1944　昭和19年 大道小学校が大道国民学校として開校
1956　昭和31年 朝比奈―鎌倉間の道路が開通
1963　昭和38年 大道中学校が開校（六浦中学校から分校）
1966　昭和41年 日通団地が造成
1978　昭和53年 高舟台小学校が開校（大道小学校から分校）

私は、今は高宗台に住んでいますが、ここも昔は大道の里山でした。ワラビやウド、クリやアケビを取って、駆けずり回っていた子ども時代のことを時々思い出します。時代は変わりましたが、ふるさと大道の記憶は、私の頭の中でずっと生き続けています。これからも大道が益々発展することを願っています。