▶シニアのためのスマホ超入門講座「第2話 インターネットの始まりはきな臭い」

中学の頃、ペンパルというものが流行っていました。ペンパルとは手紙を通した海外の友達のことです。当時の雑誌には「ペンパル募集欄」というものがあり、海外の中学生の住所が載っていて、覚えたての英語を使って手紙を書いてエアメールの封筒に入れて見知らぬ国の中学生に送っていました。返事が返ってくるとドキドキして封を開けたものです。今では、TwitterやFacebookなどを使えば瞬時にして地球の裏側の友人とメッセージのやりとりができるようになったのですから隔世の感があります。(20200809 廣瀬)

こんなことができるようになったのは、インターネットのおかげです。インターネットのインター(inter)には、international(インターナショナル 国際的な)、interview(インタビュー 面接をする)などの単語に使われているように、”相互に”とか”間”という意味があります。ネットは、network(通信網)のことですから、internetは、ネットワークを相互につなげるものという意味になります。この”相互に”が非常に大切な意味を持ちます。

インターネットが出てきたのは、かなり古くて、1950年代です。その頃は、太平洋戦争が終わったばかりで、米ソの冷戦時代でした。1940年年代に、大砲の弾道計算をするためにエニアックという丸ビルくらいの大きさのコンピュータがアメリカで作られました。これがiPhoneのご先祖だと思うと信じられません。ペンタゴンなどの軍事施設には、この大きなコンピュータが置かれていて、そこから放射状に通信回線が引かれて、その先にキーボードやディスプレイからなる端末機がつながっていました。

この通信回線が集まった所に爆弾を落とされてコンピュータが破壊されたら、軍事上の全ての機能が停止してしまいます。そこで、国防総省は、攻撃に強い通信網の研究を始めました。それがインターネットの始まりです。

糸電話のように一本の線でつながった回線だと、それが切断されると会話ができなくなります。そこで迂回路をたくさん作って蜘蛛の巣のようにすれば途中の回線が切れても大丈夫ではないかと考えたのです。ネットのことをWebと呼ぶことがありますが、Webとは蜘蛛の巣のことです。WWWと書く場合もありますが、World Wide Webのことで世界に張り巡らされた蜘蛛の巣という意味です。

また、全ての通信網が破壊されて電文が伝わらなくなることに備えて、メッセージを分解して小包のように分けて送ることを考えました。受信側はバラバラに送られてきたメッセージの小包を組み立てれば元の電文が再現できるのです。全ての通信網が破壊されても、小包がどこかに保存されていれば、通信網が復旧した時にもう一度送り直せば伝えることができます。この仕組を使えば、時間はかかりますが確実に電文を相手に届けることができます。これがパケット交換の原理です。

伝言ゲームで、それぞれの人が伝言を覚えていて、それを伝えあっていることに似ています。ただ、デジタル信号のやり取りですから、記憶違いで伝言を間違えることはありません。インターネットは、線と線が繋がっているだけでなく、巨大な記憶装置のかたまりです。ブログやTwitterで書き込んだ情報は、インターネット上の膨大なサーバの中に残っています。従って一度インターネットに放たれた情報は簡単に消すことは難しいのです。

このインターネットの骨格が出来たのが1960年代だと思います。最初は、一部の技術者だけが使っていました。私がネットワークに関わりだしたのは1970年代のパソコン通信の時代でしたが、その頃にはインターネットと言う言葉はなかったと思います。1980年代に、日本にはJUNET(Japan Univercity NETwork)というネットワークができて、いくつかの大学と一部の企業の研究機関がつながりました。私の最初のメールアドレスは、hirose@jip.junetというものでした。始めは、日本だけでしたが、inetクラブというボランティア組織を経て、WIDEプロジェクトができて世界とつながるようになりました。

インターネットのすごいところは、とにかく繋がってしまうということです。同僚にメールが届くまでに数時間かかったりしましたが、何とか届くのです。JUNETと言っても誰かが中心になってネットワークを構築したものでなく、それぞれの大学や企業の人たちが、会社が終わってから勉強会に参加したりして、手弁当で電話回線を使ったり専用線を引いたりしてつなげていました。インターネットの取り決め自体も自分たちで作って、いつも改良されていました。これは、今でも続いているのではないかと思います。

大道の自宅のパソコンからカルフォルニアの友人に電子メールを送る場合、まず、電話回線から東京のプロバイダに入って光ケーブル経由で海底ケーブルを通るか、衛星通信回線を通るかして太平洋を横断してアメリカのプロバイダに入り地域の回線業者を経てカルフォルニアの友人に届くのです。その間に様々な通信媒体を経て伝わりますが、全てインターネットの取り決めに従っているのです。

インターネットには、ベストエフォートという考え方があります。ベストエフォート(best effort)とは、日本語でいうと「最大限の努力」といった意味です。インターネットをつなげるために最大限の努力をしますよ、ということです。ですから、インターネットは必ずつながるという保証はないんです。そもそも、NTTやGoogleなどの一社が構築したシステムではありませんので当たり前と言ったら当たり前です。インターネットを使うのにお金も払っていませんしね。インターネットの速度にしても、新幹線のように時速300Kメートルを保証するというものではありません。

メールやLINEを使っているの人の中には、インターネットは必ずつながるものと考えている人がいますが、それは大きな誤解で、本来、つながらなかったらごめんなさい、という世界なんです。私は、重要なメールを受け取ったときには必ず返事を返すようにしています。

インターネットは、世界中のネットワークやパソコンが好きなボランティアに支えられていることを忘れてはいけないと思います。プログラムの多くは、ボランティアが作ったオープンソースというものが使われています。多少遅くても、エラーが出ても、そういうものなんだと柔軟に考えることが重要だと思います。Zoomのセキュリティ云々が言われていますが、インターネットのサービスなんて本来、そういうものなので私は全く気にしていません。私もそうですが、インターネットの世界には、新しもの好きで、楽しんだもの勝ちという楽観主義の人たちが多いです。

【シニアのためのスマホ超入門講座】
第1話 ネット社会はどのようにして出来たか
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2020/08/07/no1/
第2話 インターネットの始まりはきな臭い
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2020/08/09/no2/
第3話 コンピュータが丸ビルから手のひらの大きさになるまで
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2020/08/16/no3/
第4話 スマホはひとりの若者の夢想から始まった
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2020/08/30/no4/
第5話 スマホとパソコンはどう違うの?
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2020/09/05/no5/
第6話 スマホやパソコンの使い方の極意
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2020/09/08/no6/
第7話 スマホにも戸締まりが必要だ
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2020/09/12/no7/
第8話 スマホはこんなに便利
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2020/10/10/no8/
第9話 Facebookのススメ
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2020/12/26/facebook/
第10話 サイバーセキュリティのお話
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2021/03/20/taisaku/
第11話 パソコンやインターネットを生み出したカウンターカルチャー
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2021/06/26/culture/
第12話 ビデオ会議システム「Zoom」のお話
https://daido-net.sakura.ne.jp/wp/2021/07/08/zoom/

▶シニアのためのスマホ超入門講座「第2話 インターネットの始まりはきな臭い」” に対して1件のコメントがあります。

  1. 暫く読んでませんでしたが、やはり広瀬さんの話はわかりやすくためになります。これを読んで知ったことを誰かに自慢したくなります。今の時代は当たり前のことが30年程前に好奇心の強い技術者たちによって骨格が作られていった事実が今となっては懐かしく思い出されます。

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